コトナル#007 閒-あわい-のメールマガジン
・朽ちていくわたしたち
・手に取ってもらう喜び
・身体で掴んで書いていく
こんにちは。「コトナル」編集部です。
創ること、創ろうとすることではじめて、見える・気づく・変わる・出会う・繋がる人・もの・ことって、ありますね。1月、閒のメンバーは「京都文フリ」の出展に合わせてそれぞれに本をつくっていました。今月はその振り返りを中心に、読者のみなさんに生活創造のプロセスを共有できればと思います。
「コトナル」について
コトナルー異なる/個となる/孤となる/co-となる(協働)/隣る の言葉遊びで名付けました。固有の身体を持つ私たちが、異なり合いながら重なり合う、小さく新しく多様でありながら広く旧く普遍である、そんな物語を掬って紡いでいけたらと思います。
創刊のあいさつのようなもの:「あなたに手紙を」
発行者:株式会社閒(あわい)・鈴木悠平
配信日は、毎月第1土曜日の13時です。これを読んでくださっているあなたのご感想やご質問、企画の持ち込みやリクエストも大歓迎です。
2024年2月の短歌(佐藤和代)
作:佐藤和代(画像の一部に黒木萌さんのイラストを使用しました)
気がつけばここに来ていてひとりでも歩けるなんて知らなかったの
今月のコラム:書籍『朽ちていくわたしたち』がつないでくれた人々(田代智美)
夫の祖母が亡くなった。それとときを同じくして、祖母の認知症がひどく進行していることを伯母から聞いた。私はこのときに初めて、自分の病気も含めた周りの人々の生老病死について、いつか一冊の本にまとめたいと思った。ちょうど閒でZINE(本)をつくろうよ、というムーブメントが起こっており、ある友人が「さとみんもZINEつくろうよ!」と背中を押してくれた。
内容は過去に書いたエッセイたちと、書き下ろしの詩にしよう。そう思って自分で表紙をデザインしてみたが、納得いくものができなかった。自分の手で書いた文章にも自信がなかった。今回のZINEは処女作だし、気合いを入れて作りたいという気持ちが強かった私は、編集に友人の鈴木悠平さんに入ってもらい、表紙デザインもプロにお願いすることにした。ここから私の交渉という名の「お願い」が始まった。
表紙の写真は花の写真がいい。はじめに思い浮かんだのは本田武彦さんという方がTwitterやInstagramであげていた花の写真だった。本田さんはTwitterに花の写真とともに一言を添えて投稿する方で、花の写真が美しいことはもちろん、その一言がとても滋味深く、ずっとファンでいた。本田さんにDMでZINEに写真を使わせていただきたい、とお願いすると、快諾してくださった。大変ありがたい。やはり、お願いしてみるものだ。そう思った。
ここで私は少し背伸びをして、大手広告代理店に勤務されていた大ベテランのデザイナー・装丁家の方にDMをしてみた。本田さんのときもそうだったが、自分のZINEにかける想いを心から綴り、自分の原稿を添付した。ドキドキしながら返事を待っていると、私の原稿を全部読んでくださったことが分かる文面で、「本当は僕はクライアントとは直接お話をしてお仕事を引き受けるか決めるのですが、田代さんの体調面もあるでしょうから、いくつか質問をするのでそれに答えていただければと思います」との返事があった。質問はデザイン・印刷についての実務的なものばかりだった。「もしかしたら本当にお願いできるかもしれない……」。そう思った私は嬉々としてDMに返信をした。しかし結局条件は嚙み合わず、丁寧にお断りのDMを頂いた。それでも、あの方に「お願い」をすることができた。自分の原稿を読んでもらうことができた。それだけでも私にとっては大きな糧になっている。
いよいよ装丁をお願いできるデザイナーさんが見つからない、となったときに、閒でご縁があった島影圭佑さんにお願いしてみようと思い立った。島影さんにお願いすると、しばらくして「僕でもいいのですが、僕よりうまくデザインしてくれるデザイナーさんがいます。その方にお願いしましょうか?」と尋ねられた。しかし私は、島影さんにお願いしたかった。「島影圭佑」というその人に興味があったし、「島影圭佑」その人の生み出すモノが好きだったからだ。島影さんとは複数人の集まるZoomで面識があったが、一対一でZoomをすることになった。デザインの話をする前に、お互いの興味関心を知りましょう、と私が切り出すと、島影さんは饒舌に自分の興味関心やポリシーを話してくださった。「この人にお願いしたい」という気持ちがより強くなった。島影さんが引き受けてくださることになり、3つデザイン案を出してくれたのだが、その後もZoomをつないで細かい私のこだわりやデザインのディテールを汲み取ってくださり、画面共有をしながら入稿ボタンを押すところまで伴走してくださった。
こうして『朽ちていくわたしたち』が出来上がったのだが、装丁も大満足の出来で、島影さんにお願いして本当によかったと思っている。本田さんもTwitterでの拡散にいつも協力してくださって、本当に心からありがたい気持ちでいる。こうしてできた人とのつながり、対話が、私の人生にとって、本当に大きなチャレンジであり、糧となったことは言うまでもない。
『朽ちていくわたしたち』田代智美
私が花の写真をどうしても表紙にしたかったのは、祖母にもしものことがあったときに、花を飾ることが大好きだった祖母に、祖母のことを大切に大切に思っている私のせめてものはなむけとして、棺桶に自分の本を入れたいと思ったからだ。
心をこめて文章を綴り、心をこめて人とコミュニケーションをとり、心をこめて作り上げたZINE、手に取っていただけると幸いに思います。下のリンクからご購入いただけますので、ぜひ。
それだけで、そこには喜びがある—ことなるさんの日常#2(秦野優)
閒の運営するオンラインコミュニティの日常の一幕を「ことなるさん」のイラストでおすそ分けします。
イラスト・秦野優
「本を売る。手に取ってもらう。それだけで、そこには喜びがある。」
「本を通してあなたと出会いたい」
身体で掴む―執筆日誌#2(鈴木悠平)
1月前半のこと:
年末年始はほとんど寝て終わった。
連休が明けて、お子たちも保育園に送り出し、そろそろ正月休み気分から抜け出さねばならない。といっても私に勤務先や決まった業務時間があるわけではないので、身体とリズムは自分でつくる必要がある。とにかくたくさん読んでたくさん書くことに尽きるのだが、色んな単位の時間・空間をうまく使って、実験・探索・学習・練習してみようと思う。
自分の内側にあるものだけで書こうとしないで、外から色んなものをもらって食べて出してしていくと幅も広げられて良いだろうと考え、友人にお題をもらって短い物語を書いてみることにした。3年ほどまえ、ほとんど何もできず寝込んでいた時期に、生活のリハビリも兼ねて、同じように友人からお題をもらい、毎日原稿用紙一枚分=400字で小説を書くということをしばらくやっていたのだが、今回は、400字〜4000字ぐらいの範囲内で、色んな長さで書いてみることにした。掌編・短編と言えるボリュームで物語をつくる、動かす感覚を身体で掴んでいくことを主な目的とする。
もらったお題から手を動かしてみて、2つ掌編を書いた。
「鳥籠」 約500字
「ロケット」 約1500字
なるほど。書いてみて色々とセルフフィードバックが得られた。読んでくれた友人からの感想や助言もありがたい。
今年の文学賞・新人賞・公募一覧ページを友人がシェアしてくれたのでざざっと見ていった。2000字ぐらいの短い作品公募もけっこうあるようだ。1月末〜2月末までの公募から、これとこれとこれ、出してみようかなというマイルストーンを置いてみた。
もちろん適当に書くわけではないが、しかしあまり気負わず、練習試合だと思って色々試しに出してみよう。そこからまた得られるものも多いだろう。いきなり長距離走はできない。3月になる頃にはまた少し違う風景が見えていると思う。そこからまた向こう半年ぐらいの過ごし方、書き方を考える。
土曜、家族4人で新幹線に乗り実家へ。ムスコ、ばあば(私の母)にファーストシューズを買ってもらう。この1週間で一気に歩ける歩数が増えたな。
日曜、先に一人実家を出て京都文フリへ。ツマとムスメとムスコと父と母はアンパンマンミュージアムへ。
京都へ向かう電車で、朝からストロングゼロを飲んでいるおじさんがいてとても良かった。阪神電車ではなく阪急電車である。良い。
京都文フリの会場、東山のみやこメッセで一緒に出展する友人と合流。
鈴木悠平・愼允翼『介助とヒーロー 『ラストマンー全盲の捜査官』を2人で観る』
黒木萌『土に呼ばれて 1 巡目 2022年 2月~2023 年 1月』
田代智美『朽ちていくわたしたち』
sayakame『港区からサイタマに引っ越した7つの理由』
の4冊を販売。色んな人に立ち寄ってもらい、どの本にも興味を持ってくれる人がいた。4タイトル合計で25冊お買い上げいただけた。
初めての参加・出展なので、どんなもんかわからんし、0冊とか1冊でもおかしくないだろうぐらいに思っていたので、素直に嬉しい。
出展ブース数は700以上で、最後の運営からのアナウンスによると、出店者と来場者合わせて一日で述べ3000人ほどが参加したとのこと。
1ブース平均2人として出店者側が1500人ほどで、純粋なお客さんがそれと同じぐらいきて全部で3000人ぐらいかなーって、開場前に列に並んでいるときにざっくり推論したんだけど、ほぼ計算通りだった。SNSがここまでインフラとして普及する前のインターネットみたいな空気を感じた。平場って感じ。東京の文フリは2000ブースも出るようで、そっちにも出すかはまだ決めていないが、今回の京都ぐらいの規模感が個人的には程よい。
友人たちと河原町で店に入ってお金の計算と打ち上げ。最終の新幹線で東に帰った。
1月後半のこと:
12月1日から1ヶ月半にわたって続けてきた「刑務所アート展」クラウドファンディング最終日、終了時間ギリギリまでライブ配信。前週末の関西旅も含めて、さすがに疲れが出たのと、その間いろいろと後回しにしていた仕事のうち、さすがにそろそろやらないとというものがあったりとで、お題掌編書くエネルギーと時間が足りなかったが、毎日色んな本を読んだり映像を見たり、メモを取ったり、散歩をしたりと、外から取り入れる時間は維持するようにした。
1月27日、大学院の指導教官であった立岩真也先生の追悼集会参加のため、再度京都へ。
川を遡るのにさほど大きな船や荷物は要らないこと、航路は人の数だけあり、自分で見つけなければならない一方、それらは存外に色んなところで繋がり、交わり得るのだということ、道半ばでも記録を遺しておけば誰かが後に続いてくれるかもしれないことなどを、立岩先生から教わった。教わった、というより、示してもらったという方がただしいかもしれない。
先生と一緒につくっていた雑誌『遡航』
ペンネームを決めた。閒の友人たちにたくさん案をだしてもらって、最終的に、智美さんが出してくれた名前に決めた。ありがたい。
はじめて、小説の新人賞「公募」なるものに投稿した。高橋源一郎が選考委員の掌編コンテスト「小説でもどうぞ」。1月末締め切りのお題「トリック」に出した。結果は4月1日。
書いていくなかで見えてくるものもある。外から「やってくる」ものを掴んで形にすることで見えてくるものもある。
身体で掴んで、書いていく。
掲示板
閒のメンバーや読者のみなさんから寄せられた制作物や活動報告、イベントお知らせなどを掲載します。みなさんの生活創造の軌跡を、ぜひお気軽にご連絡ください。毎月月末までにメールでいただいたものを次号に掲載します。
プロジェクト
塀の内と外をつなぐ対話を生み出す「刑務所アート展」
全国の受刑者たちから募集した芸術作品を展示する「刑務所アート展」の開催を通して、塀の内と外をつなぐ対話の場を生み出します。
2023年12月1日から2024年1月15日までクラウドファンディングに挑戦し、延べ220人の方に計2,437,000円のご支援をいただきました。ありがとうございました。
現在、作品審査・展示の企画・カタログ制作・ウェブサイト制作等に取り組んでいます。
第2回「刑務所アート展」は、2024年3月22日(金)〜3月30日(土)に東京都足立区北千住にあるギャラリー「BUoY」で開催予定です。次号のメルマガで詳細ご案内しますので、みなさんぜひお越しください。
書籍
閒のメンバーが執筆・制作に携わった本や、最近読んだ本、読者のみなさんからご紹介いただいた本の情報を掲載します。
黒木萌『土に呼ばれて 1巡目 2022年2月〜2023年1月』
この本は、宮崎県延岡市西部の市民農園で畑を営みながら、ちいさく地産地消をつづける日々を綴ったエッセイ集です。
30代後半に入り、生理不順での婦人科受診をきっかけに、生活習慣の改善を迫られた著者である私・黒木萌は、ある日「畑をやることにした」。小学生の息子と一緒に土を耕しながら、いのちと触れ合い、自分自身と出会い直した、はじまりの一年です。
『土に呼ばれて 1巡目 2022年2月〜2023年1月』定価1500円(税別)
以下のBASEストアまたはGoogleフォームからご注文いただけます。
現在も毎月5日に閒のウェブサイトで連載中です。ぜひこちらにも遊びにいらしてください。
sayakame『港区からサイタマに引っ越した7つの理由』
コロナ禍をきっかけに東京の中心部からサイタマの何ともいえない場所に移住してみて感じたあれこれを綴ったエッセイ集です。
鈴木悠平・愼 允翼『介助とヒーロー 『ラストマンー全盲の捜査官を2人で観るー』』
脊髄性筋萎縮症(SMA)Ⅱ型による重度身体機能障害のある愼允翼(しんゆに)と、愼の介助者の一人、鈴木悠平(すずきゆうへい)が、テレビドラマ『ラストマンー全盲の捜査官』を観て対談しました。他者との介助が不可欠な「開かれた」ヒーロー・皆実広見、その新しさと普遍性に迫ります。
(他のみなさんと違ってまだウェブ販売の準備ができていません…来月のメルマガでまたご案内します。もしご興味持ってくださった方はまずブログをどうぞ)
閒-あわい-ウェブサイトでこの1ヵ月に書かれた記事
なにか書きたい人、表現したい人、創りたい人、企画・モヤモヤ・問いの持ち込み・相談いつでも歓迎です。
掌編(鈴木悠平)
「鳥籠」
私が鳥を飼うつもりでないことは彼女も分かっている。
「ロケット」
5歳のとき、父に肩車されて丘の上でロケットを見た。
エッセイ(田代智美)
「発作と共に生きる」
外を出て道端を歩いていると、急に気分が悪くなり、酷くえずく。
「銭湯の中の物語」
脱衣所で服を脱ぎ、丸裸になって銭湯の中に入る。
「鞄を新調する」
鞄を新調した。自分の作ったZINEを持ち歩きたいと思ったからだ。
「絵画教室に行く」
先生は大きな画台と二枚の画用紙、鉛筆、カッターナイフを持って私を席に促す。
インタビュー
伊藤亜紗さんによる愼允翼さんのインタビューです。
脊髄性筋萎縮症のため24時間の介護をうけるユニさん。他者の身体を自らの延長として使う自分を冗談で「帝国主義者」と呼びます。一方で、介助者とのあいだで事故はないのかという質問に、「健常な人間だって、手を伸ばすけど実際に頭を守れるかどうか分からない、だから同じ」との答え。「身体の他者性」と「他者の身体性」がぴたりと一致した気がしてぞくぞくしました。読みにくいですが、インタビューのあいまに飛ぶヘルパーさんへの指示(中華スープ作ってる)もあえて残して文字起こししています。
「あさひてらす」での伊藤亜紗さんの連載「一番身近な物体」でも、「第四回 帝国主義者のまなざし」にて愼さんへのインタビューをもとにしたコラムを書かれています。
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