夏が過ぎ去りことばが還る コトナル #10
「コトナル」に配信登録いただいたみなさま
こんにちは。鈴木悠平です。前回の配信が4月20日、そこから半年以上も開いてしまいました。すみません。書けてないなぁ書かなきゃなぁと毎月思いつつ、どうにもこうにもにっちもさっちもの日々でしたが、ようやく浮上してきて、お手紙を書けるようになりました。
「夏が過ぎ去りことばが還る」と表題をつけてみましたが、題とサムネイルだけ保存してから今日配信するまでまた1,2週間経って、その間に僕が住んでいる高尾(東京・八王子市、高尾山のあるあの高尾です)はどんどん寒くなってきて今朝起きたら気温6℃、もう冬の入口という感じです。うひゃぁ。
ともあれ、手を動かして鉛筆やボールペンやキーボードをとにかくさわって言葉を文をもぞもぞと出していけるようになってきたのが、9月の中頃から夏の終わりにかけてのことでした。サムネイルの写真は、9月18日〜20日に滞在した、岩手県陸前高田市の箱根山テラスから撮った、箱根山と広田湾です。
そこからまた日が経って10月15日に書いた日記。
波を生きる 2024/10/15
「冬季うつってあるじゃん、それの夏版みたいな状態だったんだな、俺は。夏季うつだ、夏季うつ」と、リビングに寝転がりながらぼやいてみたら、「それはね、ただのうつだよ」とツマに返された。正しい。ツマの言うことはだいたいいつも正しい。
病気との付き合いはもう5年だか6年だかになるので、進研ゼミで習うまでもなく、この抑うつ状態/症状はすでに「知っている」。時間を引き伸ばして人生トータルで考えれば(というか、自分が死んでから後を生きる人たちが何かしら受け取ったり拾ったり引き継いだりしてくれるであろうことも含めて)どうとでもなるのだという根底のオプティミズムも揺らがない。とはいえ、そうはいっても、沈んでいる最中はなかなかにしんどいもので、「ツマも子どもも友人たちも達者で立派にやっているというのに、俺は乳も出ないし金も稼げないし日々のことすらヘロヘロで要領も悪いしなんて情けない!」などと嘆いたりメソメソ泣いたりしていたのだ。弱るとつい、能力主義の物差しで自分を痛めつけてしまう。世界はもっと広いことを、僕はとうに識っていたはずなのにな。
3月末に高尾に引っ越してから気づいたら半年が経った。新生活は誰だってバタバタするものであるが、もう「新生活」とは言えない月日が経ってからも一向に余白が生まれず、というか、バタバタしているうちに色々と状況が変わって身体的にも精神的にも経済的にも身動き取れない状態になってしまって、だんだんと焦りを感じ、抑うつが強まっていき、夏の暑さに体力をますます奪われ、底を打ったのが9月の上旬。これはダメだ、弱ってる、助けてーって、ツマや友人や仕事仲間にSOSを出した。
「底付き」とは、先人たちもうまい喩えをしたもので、こういうのは言葉にして助けを求められた時点でもう回復、上昇基調に入っているのである。別にその後も状況が大きく変わったわけでもないのだが、9月の後半にかけてだんだん心はヘルシーになっていった。上がったり下がったりの波そのものをもう少しどうにかできないものかと思わないわけでもないが、回を重ねるごとに波の乗り方は、溺れかけたときのリカバリーの仕方は、ちょっとずつうまくなっているとは思う。
…ということを9月の終わりに振り返って書こうと思っていたら、もう10月半分終わったってよ。まじ。まぁしかし、1日1日を過ごすなかでの焦りはなくなった気がする。ようやく暑さが和らいできました。いやぁ暑かったね。
状況が大きく変わったわけでもなく、急に気力体力が充実してパフォーマンスが上がったわけでもなく、言わずもがな、相変わらず、儲からない日々なのだが、一つ自分で「変えた」ことがある。底を打って浮上しだした9月の中ごろから、もう「作家」と名乗ることにした。いまこういうことを書こうとしていて、でもまだなかなか書けてなくて、普段はこういう仕事やプロジェクトをしていて…などと自己紹介の入口でゴニョゴニョモニョモニョしないでスパンと一言そう名乗ってから始める、そのように在る、生きることにした。ヘルシーである。
「書かなきゃ」「書けない」と思えば思うほど書けなくもので、身体が先ですよね。書き始めようと気合い入れるんじゃなくて、まず手を動かして、もう「始まっている」「書いている」状態にもっていく。
このメールマガジンが半年も止まってしまっていたのも、そういうことで、何かこう、登録してくれたみなさんに価値ある読み物を提供しなければ、それなりの企画とか構成とかコンテンツラインナップというものがなければ、と変にハードル上げてしまう。これはtheLetterという配信サービスを使っているのですが、「手紙」ってそういうものじゃないですよね。
いま、これを読んでくださっているあなたを含めて、「コトナル」の「読者数」は95人、と配信管理画面に出ています。theLetterはメールアドレスだけで登録いただけるサービスなので、一覧に一人ひとりのお名前は表示されていません。ただ、theLetterに移す前、去年の12月から最初の数通は、僕が「メルマガ始めてみまーす」ってFacebookに投稿して、コメント欄やメッセンジャーでメアドいただいたり、Googleフォームに登録してもらったりして、Bccでメアドベタ打ち手動配信でやっておりまして、こちらに移ってからも、お友達と会ったりチャットしたりしたついでに、メルマガ送っていいですか?って僕からお声がけして登録してもらっていった次第なので、一覧を見ればほとんどみんなの顔と名前が浮かぶのです。
という感じで、極めて個人的なつながりのなかでぬるっと始めたのがこのメルマガなのですが、時折、僕からご案内していないときにも「新規登録者が増えました!」という通知が来ることがあって、アドレスを拝見しても、お名前が類推できず、自分のGmailで検索かけてもヒットせずで、おそらく直接お会いしたことのない方からのご登録だと思います。はじめまして。こんなネットの片隅でぼそぼそ書いているような私のお手紙をよく見つけてくださって、ありがとうございます。それなのに半年も止まっていてすみませんです。よかったら、ぜひあなたのことも教えてください(このtheLetter上でも返信とかコメントができるみたいです。閒のWebサイトのコンタクトフォームからでも、ぜひ)
そんなわけで、そう、つらつらと書いてきましたが、「手紙」ですね、手紙。そこに立ち返ろうと思います。創刊のごあいさつのような、最初の配信でもこのように書いていたのです。
「あなたに手紙を」
固有の身体を持つ私たちが、異なり合いながら重なり合う、小さく新しく多様でありながら広く旧く普遍である、閒-あわい-が掬って紡ごうとしているのはそんな物語だ。
個別的で具体的なそれぞれの身体と足場から、生活を創造しようとしている人たちに、またそうした一人ひとりの生活を支え、拡げ、彩り、結び、繋げようとする事業/研究/芸術に取り組む人たちと、共にありたいと思う。
海の底で生まれた新しい島が海面を抜けて人々に姿を見せるまでにはそれなりの年月を要するが、創造のプロセスはそのずっと前から始まっている。
もとより全てを書き記すことはできないし、水面下の蠢きをみんながみんな知る必要もないのだが、そのプロセスの一部でも開き分かち合うことでまた新しい物語が生まれるかもしれないし、面白がってくれる人はいるだろうし、少なくとも僕自身がそういう書き物の場とリズムを必要としているので、とりあえず月に一回、書いて放流する、ということを始めようと思う。
手紙なんだけど、1対1の私信ではなく、とはいえ、不特定多数に向けて書くわけではなく、なにかのご縁でメールアドレスを登録してくれた「あなた」たちのことを思いながら、暮らしのなかで、肩ひじ張らず、日記の延長、近況おすそ分けのような感じで、書いていきます。月に一回、第1土曜日に定期配信、と言って何度かやってみたのですが、どうもそれがよろしくなかったようで、手が動いて何か書けたときにスーッと流していくことにします。次回更新未定。でも、案外早いかもしれない。短くサラリと小分けにしていくかもしれない。ということで、半年ぶりのご挨拶でした。
ここから先はオマケ、と言ったらアレなんですが、最近こんなことやってます的な簡単な近況報告と関連するリンクをペタペタ貼っていきます。でもまた別の機会に、一回の配信で一つのテーマとか活動についてもうちょっと詳しくお話する方が面白いかなーとも思っているので、ここから下はザザッとスクロールしてもらって、「おっ」と思ったのがあればクリックしてみるみたいな感じでおーけーです。
あ、あとついでに、今月、この日はここにいます的な出没カレンダーを貼ってみます。
毎週水曜日は友人宅で重度訪問介護のシフト、他の曜日は、下に書いてある予定の日以外は、何もなければ高尾にいます。朝夕の子どもの送り迎え時間以外は融通きくのでオンラインでもオフラインでもなんかあれば誘ってください。下に書いてある予定・場所でタイミングよく近くにいるよーという人はお声がけください。お茶とかしましょう。
11/9(土)日帰り京都 社会学会大会テーマセッション「質的データのアーカイブ」で発表
11/10(日)終日、九段下テラスにて「インターミディエイターフォーラム2024」に参加・登壇
11/12(火)午前中に吉祥寺・井の頭公園で用事、その後適当に近くで作業するかも
11/14(木)12:00-18:00高円寺のシェア書店「本店・本屋の実験室」で店番
11/15(金)14:00-16:00@田町で打ち合わせ、その前後適当に近くで作業するかも
11/16(土)13:00ごろから高円寺のシェア書店「本店・本屋の実験室」でイベント打ち合わせ、 その前後適当にお店や高円寺に滞在するかも
11/18(月)13:00ごろから銀座でお茶の約束
11/21(木)12:00-17:00高円寺のシェア書店「本店・本屋の実験室」で店番
11/23(土)お昼に池袋でランチの約束、そのあと阿佐ヶ谷で昔住んでいたシェアハウスの解散パーティーへ
11/24(日)渋谷公会堂にて「MOVE FES.2024」スタッフ参加
「あいだ」から未来を創る、対話のさざなみ インターミディエイター・フォーラム2024
異なる領域や言語を媒介し、開かれた協働の場から、新たな需要、関係変化、先端表現を創りだす存在、Intermediator(インターミディエイター)として活動する人、また関心のある方が集い、学び合うフォーラムです。
今年で第8回、僕も以下の題でスピーカーとして登壇します。
「美しい社会へー排除の原理から漸進的包摂へ:Prison Artsを通した越境的対話」
2024年11月10日(日)13:00 - 18:00、会場は九段会館テラス、毎年各地から多くの方にリモートでも参加いただいています。主宰の設樂剛先生が書かれたインビテーション・レター(上記のページからご覧いただけます)を読んで、ビビッと来た方は、ぜひお越しください。悠平は最近何やってるんだという方も、いいタイミングなので見に来てください(笑)。
「壁」を越え、「はじまり」をつくり続ける Prison Arts Connections
ここ数年、仲間たちと一緒に取り組んでいるプロジェクトです。「刑務所アート展」という企画展の運営を中心に、刑務所で過ごす人たち、刑務所とかかわる人たち芸術表現を媒介し、対話を生み出そうとしています。
先日、「第3回刑務所アート展」の募集案内が完成し、各地の刑務所に発送をはじめたところです。作品をご応募いただけるのは、”刑務所とかかわるすべての方”です。受刑者の方はもちろん、刑務官の方からも応募を歓迎します。少年院や拘置所など他の刑事施設からもご応募いただけます。他にも、支援者やご家族の方、元受刑者の方、過去の刑務所アート展に来場いただいたり、Prison Arts Connectionsのイベントにご参加いただいたりした方など、刑務所と関わりのある方(あった方)は、立場やきっかけ、かかわり方を問わず、作家としてご応募・ご参加いただけます。
僕は今回、全体の運営だけでなく、「あなたへ」―たった一人に向けた匿名の手紙たちという、「手紙」を題材としたテーマ企画のディレクターを務めます。これを読んでくださっているみなさんにも応募いただけます。誰か一人に宛てた手紙を、本人に送るのではなく双方匿名の作品としてこちらに送っていただき、それを展示するというものです。
第3回の募集テーマを決めるにあたっても対話を重ねてきました。以下のYouTubeに募集テーマ発表会のアーカイブがあり、そこで詳しくお話していますのでよかったら覗いてみてください。
11月20日からは、和歌山で「プリズンアート展」というはじめて東京以外の県での展示が開催されます。
今年3月に北千住で開いた第2回刑務所アート展のカタログはオンラインストアでも販売しています。
生に隣る 重度訪問介護というしごと
重度の身体機能障害のある人が、(多くの場合は複数人の)介助者と協働して、自分が望む場所、方法で自らの生活を創造していく、そのプロセスを支える主要な公的支援制度として、「重度訪問介護」というものがあります。僕はその制度を使ってのヘルパーとして、週に1〜2回、友人の愼 允翼(しん ゆに)くんの家に行って、介助をしながら暮らしの一部を共にしています。気付けばもう4年になります。彼のところにヘルパーに行くだけでなく、他の利用者さん宅のコーディネーター(介助者の採用や勤務調整、他の支援サービスや自治体との連携など)として関わったり、調査研究やイベントなどでゆるやかに各地の仲間たちと繋がり協働したりしています。
どんな仕事、どんな暮らしなのか、その雰囲気をなんとなく感じてもらえるものとして、允翼くんと一緒に話したり書いたりしたものをいくつかリンクでご紹介。彼に限らず、全国どこでもヘルパーは不足していてみなさん随時募集中です。未経験でも、週1、2回でも入れます、興味ある方はいつでも連絡ください。仕事あります(笑)。
介助の仕事をはじめて3年目に書いたエッセイ「生に隣る」
允翼くんと伊藤亜紗さんとお友達3人でよもやま話したトークイベントの録画・文字起こし
允翼くんとの対談本『介助とヒーロー: 『ラストマンー全盲の捜査官』を2人で観る』。
『ラストマン』は、どんな難事件も最後に解決することから「ラストマン」と呼ばれる凄腕のFBI捜査官・皆実広見(演・福山雅治)と、悪を強く憎み犯人逮捕のためには手段を選ばない刑事・護道心太朗(演・大泉洋)がバディを組み、毎話様々な事件を解決していきながら、二人の生い立ちに大きく関わる、四十一年前のとある強盗殺人事件の真相に迫っていく刑事ドラマです。
ストーリーは「王道」そのものと言える展開ですが、タイトルにある通り、バディの片方である皆実広見が「全盲」の障害者であるという設定が、このドラマに深みをもたらしています。皆実広見は、海の向こうから、日本人・健常者とは「別の秩序」を持ち込む異質な存在であると同時に、犯人逮捕という仕事を遂行するためには、他者の介助が不可欠であるという、一人で完結しない「開かれた」存在でもあります。
バディであり主たる「介助者」である護道心太朗はもちろん、AI搭載のカメラといった最新鋭のテクノロジーや、彼の目となる技術支援捜査官の吾妻ゆうき(演・今田美桜)をはじめとする捜査一課のチーム、マスコミやSNSユーザー、事件関係者、米国大使館の元婚約者に至るまで…周りの人たちを持ち前の「人たらし性」で次々と味方につけながら事件を解決していきます。そのあり方は、同じく盲目のヒーローとして挙げられる、孤高の侠客・座頭市とは対照的です。
また、ドラマ内では事件捜査の合間に食事をはじめとする「生活場面」が多く挟まれ、役者たちの演技と、ディテールを捉えた脚本・演出も相まって、彼らがとてもリアルで生き生きとした人間として描かれています。五感のいずれかに障害があると、その分他の感覚が鋭敏となり、それが障害者の突出した「才能」や「強み」となって問題解決に活かされる…というような「障害者もの」のステレオタイプとは明確に異なる、「目が見えない身体を生きる」姿を描いた作品だと言えます。
各話の事件では、「無敵の人」、芸能人の不倫スキャンダル、SNSインフルエンサー同士の嫉妬と競争、冤罪とネットリンチなど、極めて「現代的」なトピックを扱いながら、その実、家族や正義のかたちという古典的かつ王道のテーマに回帰していくという物語構成も、このドラマのエンタメとしての面白さを語るに欠かせない特徴です。
そんな『ラストマン』は、皆実広見と障害種別は異なるものの、同じく常時「介助」を必要とする障害者とその介助者である僕たち二人にとって、「他人事では観られない」、思わず「語りたくなる」問いと魅力に満ち溢れたドラマでした。ドラマ放送当時に収録し、それをブログとPodcastで公開した合計7回の対談を一冊にまとめ直したのが本書です。
ポッドキャストに音声版もあります。
シェア書店から、「本のある街」の未来を探る
ひょんなことから「本屋」に関わることになりました。
10数年前に知り合ってからお世話になっており、ちょくちょくお会いして色々お話してきた、アクティブすぎるシニア・橘川幸夫さんからの橘川さんの無茶ぶりでいつの間にか担当することになったのですが笑、最近増えつつある「シェア書店」の運営実態調査を通して、出版・書店を巡る社会構造の変化や、本とひと・地域・ビジネスの未来をみんなで考えていこう的なプロジェクトをちょっとずつみんなでこねこねしています。
で、その過程でこの夏にオープンした高円寺のシェア書店「本店・本屋の実験室」にも棚主として参加することになりました。橘川さんが「深呼吸書店」という屋号でいくつかのシェア書店に出店しているのですが、「棚代は俺が出すから、鈴木くん、高円寺よろしく」ってことで、はい。上のカレンダーにも書きましたが、月に何度かお店にいますんで遊びに来てください。
橘川さんが今年創刊した、”時代の最前線を個人の視点で語るメディア情報誌”『イコール』の第2号の特集1、「本」のある町、「本」のある場所。のなかで、シェア書店の運営実態調査の報告や考察、全国各地のシェア書店オーナーさんへのインタビュー記事、一日店長コラムなどなど、書いたり編集したりディレクションしたりしました。
そんな感じで、色々やってます。
これまでの書き物など、ポートレート的ポートフォリオを下の記事にまとめてみました。
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