コトナル#006 閒‐あわい‐のメールマガジン
・わたしが土に呼ばれた日のこと
・となりに座る圧倒的な他人
・地べたにしゃがんで筆をとる
こんにちは。「コトナル」編集部です。
閒(あわい)を主宰する鈴木悠平による今どきアナログなベタ打ちBcc配信スタイルで5号までお届けしてきましたが、これは早くもサステナブルではないなということで、閒の仲間たちに助けを求め、みんなでわいわい編集会議をしながら協働制作・入稿していくことにしました。配信プラットフォームも今号からtheLetterに移行し、装いも新たにお届けします。
当面、以下のようなコンテンツでこのマガジンを編んでいきます。配信日は、毎月第1土曜日の13時です。
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毎号冒頭に「今月の短歌」を1首
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閒のメンバーの生活創造にまつわる書き下ろしコラムを1本
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コミックエッセイ「ことなるさん」の日常
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鈴木悠平の小説執筆日誌
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閒のメンバーや読者のみなさんから寄せられた制作物や活動報告、お知らせ掲載
これを読んでくださっているあなたのご感想やご質問、企画の持ち込みやリクエストも大歓迎です。
2024年1月の短歌(佐藤和代)
作・佐藤和代
おめでとうわたしは今日も服を着て目抜き通りを手ぶらで歩く
今月のコラム:わたしが土に呼ばれた日のこと(黒木萌)
2年前、畑をやることにした。
どうしてそんなことにしたんだったか、昨年刊行したzine「土に呼ばれて」をひもといてみると、「きっかけは生理不順で婦人科を受診したことだ」とある。運動の代わりに畑をはじめたのだろうが、現時点でそこまで運動にはなっていない。土づくりのときはともかく、今では歩いて畑へ行くことも稀だし、水をやりたまに草をかくくらいで、大きく体を動かすことはほぼない。
だけれど、畑は新鮮な驚きを連れてきてくれた。刻一刻と変わる空の表情、夏のオクラが織りなす美しいグラデーション、大きな葉の影に鎮座するウコンの花の儚げな美しさ。畑を営むことは新たな発見の連続だった。そんなことを毎月1回、5日にエッセイとして綴って、1年が経ったから1冊の本に綴じた。
友人でありこの本の編集も務めてくれた鈴木悠平さんが運営する会社「あわい」の小さな出版の営み第1弾として、ふたりで初期費用を折半してつくった。わたしのいる宮崎では毎年11月に「zine it !」というzineのお祭りが開かれるから、それに間に合うようにと、友人のデザイナーにも手伝ってもらった。
本が仕上がって印刷会社から届いたとき、心が躍った。うれしくて何枚も写真を撮った。この本の魅力が少しでも伝わるように背景を何度も変えて、配置を変えて、スマートフォンのボタンをパシャっと押した。zinei it ! は対面販売のイベントで、直接お客さんと会話する。畑や本を介して人と出会うことは楽しくて、魂が喜ぶのを感じた。
いま、新年を迎えて、昨年春に熊本の橙書店で手に入れた奥山淳志『庭とエスキース』を読んでいた。まだ最初の方なのだけれど、この本は写真家である著者が、北海道で自給自足の生活を営み、庭とともに暮らす「弁造さん」について書いた文章とその写真をまとめた写文集らしい。これを読んでいて、わたしはわたしの大切な人を想い出した。
その人は延岡の黒岩という山手の田舎町に工房を設けていた陶芸家で、20代のわたしはそこへよく遊びに行った。自然に囲まれたその工房はほんとうに美しくて、主を失った今はもうないも同然な場所なのかもしれないけれど、わたしの心に生き続けている。
「土も水も一緒のようなもんな気がするわ。土をね、乾かすじゃない。お日様に照らして。カラカラに乾かしてから水を垂らすと、すーっとなじむのよ」
「一旦乾かすんですね」
「私、おばあちゃんになったら、園芸がしたいと思っちょるのよ。そしたらね、それを知り合いの人に言ったらね、その人が植木鉢やら何やらくれてね。ほんとうにそうできるようになってきたと。私ね、植物が育てたいの」
「植物も土と水がないと育たないですもんね」
彼女とわたしが最後に会ったときに交わした言葉だ。彼女はわたしが書きはじめるきっかけをくれた人でもある。そういうことを思い出す年始を迎えている。そういえば、彼女から土を分けてもらったことがあった。精神的に不安定でつらいとこぼしたら、彼女が「土を触ったらいい」と、陶芸に使う土と板を貸してくれた。心がざわついて落ち着かない夜にひんやりした土に触れて心が凪いでゆくのを感じたことは一度ではない。
そんなわたしが畑をはじめたのは、必然的なことのように思える。きっかけは生理不順に過ぎないかもしれないけれど、人生というもう少し長い尺度で見たときに、わたしが畑をはじめたのは、必然だったのだ。そういうわけで「土に呼ばれて」なのだろう。
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企画・編集の鈴木悠平です。萌さんが畑をやることにしたと聞いて割りとすぐに、閒のブログでの連載を持ちかけました。連載タイトルは萌さんから第1回「市民農園を借りた」の原稿をいただいてから2,3案考えてお出ししたのですが、僕もこれが一番いいだろうと思っていた「土に呼ばれて」を萌さんにも気に入ってもらって、すんなり決まりました。タイトルを考える前の連載依頼段階から、月に一回、曜日か日にちを決めて同じペースで更新して、1年ごとに1冊の本に綴じていってそれが本棚に並んでいくと素敵だよねという、「フォーマット」が僕の頭の中にありました。
僕自身はとにかくものぐさで鈍感でインドアで、季節の変化どころか自分の身体の声もよく聴けずに油断するとすぐ食事を忘れたりしてしまう不摂生者なのですが、そのくせ、なのか、だからこそ、なのか、「リズム」をつくってくれる外部とか仕掛けとか環境があるのっていいよな、大事だよなと思います。萌さんが「畑をやる」と決めた時点で、土を耕し種をまき手入れをし収穫をし…という「リズム」が彼女の生活にインストールされたわけですが、僕も萌さんも物書きでありますから、畑を営む日々の”なかで”書くリズムをそこに上乗せし、作物のついでにテキストも生み出し収穫できるようにするといいんじゃないかと考えたわけです。そんな僕の目論見は見事に当たり、というか、もともと萌さんは「決めた」ことをコツコツ淡々と重ねることができる人で(毎月1本noteでエッセイを書くこともずっと続けています、すごい)、僕はそこに乗っかってほんの少しだけ頭を使って「枠」を設けてみただけなのですが、ともあれ、気づけば1年が経ち、本が一冊できました(と思ったらもうすぐ2年!)。
僕がこの閒(あわい)という会社、そしてコミュニティを運営して3年以上経ち、昨年からこの「コトナル」を始めましたが、自分自身の暮らしのなかで、また萌さんたち友人と関わるなかで、「生活を創造する」というコンセプトが見えてきました。萌さんがふとしたきっかけで「畑をやることにした」こと、実際に畑を営むなかで感じ考えたことを言葉にし文章にし本に綴じていくことも、「生活を創造する」practiceの一つだと考えています。本人や周囲の人にとって無理なく持続可能で、楽しく、でもちょっとした勇気や挑戦やジャンプが生まれ、新しい仲間や知恵との出会いがある、そんな企画をこれからも一つ一つ形にしていきたいと思っています。
ともあれ、萌さん、連載ありがとう&出版おめでとうございます。
みなさん、『土に呼ばれて 1巡目 2022年2月〜2023年1月』ぜひお買い求めください。
定価1500円(税別)です。以下のGoogleフォームまたは萌さんのBASEストアからどうぞ。
となりに座る圧倒的な他人―ことなるさんの日常#1(秦野優)
閒の運営するオンラインコミュニティの日常の一幕を「ことなるさん」のイラストでおすそ分けします。
イラスト・秦野優
「となりに座って数年経つのに圧倒的に他人だな
そういうのがいい 勘違いしてはいけない
わかりあえるとかね」
地べたにしゃがんで筆をとる―執筆日誌#1(鈴木悠平)
11月20日、橘川幸夫さんと久しぶりに会ってお茶をした。「最近どうしてるんだ」「こうこうこういうテーマでこういう人たちと仕事をしていて、なんとか食っていってて」「で、どうしたいんだお前は」「えっとそれは…しどろもどろ」10年ほど前に(オンラインで)お会いして以来、数年に一回ぐらいしか会っていないけれど、SNSなどでなんとなく僕の近況を見守ってくださっており、それゆえにちょっと僕の「危うい」ところも感知しておられ(そうやって僕のことを見てくれている人たちは橘川さんのきっと他にもいる。このメルマガを読んでくださっている方もきっと)、それは自分でも薄々気づいていたことだったのだけれど、他の人にバンっと言ってもらうことでしか腹を括れなかったのかもしれない。話しながらポロポロ泣き、その帰り道や翌日以降、関係各位に連絡・相談し、助けを求め、おやすみをもらったり、引き継いだりして、荷物を降ろさせてもらった。大学院の博士課程も休学した。その分の時間を、「書く」こと、「作品」をつくることに充てることに決めた。自分が書くべきことは、ビジネスや学術の言語では表現できない(少なくとも今の自分にはそれらを文芸と器用に両立することができない)のは確かで、結局、書く以外に道はないのだと。
コンビニで400字詰め原稿用紙20枚パックを買い、12月はとにかく、手を動かすことにした。読む・書く筋肉がずいぶん衰えてしまっている。「書けない」ということを痛感することから始まった。
大抵の執着は、「やることがたくさんある日常生活」というものに劣る。
若くもないし、一人で暮らしているわけでもない。
「書く」こと、自分が書くべきことを書けるように書いていくためには、身体そのものを「書く」方に「持っていく」必要がある。
いま原稿用紙に書きつけているものは、まだ筋も構成も人物も物語もあったもんじゃない、セルフ箱庭療法みたいな、小説「以前」の何かでしかない。もうしばらくはこうして身体を動かして出していくので精一杯かもしれない。妊娠初期。
カウンセリング室で行われる自由連想法(実際に受けたことはないが)のような感じで、原稿用紙に向かって鉛筆を動かす(動かなかったりもする)。時たま、自分が掘るべきポイントの予感、感触のようなものを得られることがある。
12月の終わりに、頭から出るものをとにかく書きつけたものが20枚分になって、一度手を止めた。これはそのままでは当然、「小説」の原稿にはならない。日記でもエッセイでもない、私小説の手前の手前の素材のようななにか、だ。
ただ、そこから少しだけ、「書きたい」と思えるストーリーや人物の影ぐらいは見えてきた。1月は方法を変えてみる。
「期限」を切った。早くて半年、今年の6月、どれだけ遅くとも1年、今年の12月3日・37歳の誕生日までには、一つ、作品を仕上げて区切りにする。その間、筋トレや助走や練習も兼ねて、短編習作をブログに出したり、春夏の短編文学賞に応募したりするかもしれないが、向こう半年から一年の射程で、10万字〜のまとまりでとにかく一作、自分の作品と言えるだけのものを書き上げる。どこかに寄稿するのか、自費出版するのか、小説新人賞に投稿するのかはさておき、とにかく発表して読んでもらうに足るものに(と自分で思えるぐらいには)仕上げる。それができなかったら諦めて労働する。
この「コトナル」の編集・運営を閒の仲間たちに助けてもらうことにして、ここに月イチで「執筆日誌」のような近況報告をすることにしたが、ここで何か、作品の途中経過や一部を見せたり、「順調そう」な外形をつくったりしないということをルールとして課す。「第一稿」を書き上げるまでは「扉を閉じて」書かなければならない。
”地べたにしゃがみこんでシャベルで糞をしているとしか思えないようなときに、いい仕事をしていることはけっこうあるものだ”スティーヴン・キング『書くことについて』(田村義進・訳)
掲示板
閒のメンバーや読者のみなさんから寄せられた制作物や活動報告、イベントお知らせなどを掲載します。みなさんの生活創造の軌跡を、ぜひお気軽にご連絡ください。毎月月末までにメールでいただいたものを次号に掲載します。
2024.02.04 10th Single "Figure" 2024.02.19 11th Single "Moss" 各種音楽配信サービスにてリリース(Souma Nakanome)
あたらしい年のはじまりへの想いが込められた“Figure”
そして、現名義での休止前最後のシングルである『太古の湖畔』から着想を得てうまれた“Moss”
どうぞ、お聴きください。
2014/1/14(日)「文学フリマ京都8」に出展します
1月14日(日)、京都市左京区「みやこめっせ」で開催される「文学フリマ京都8」に出展します。閒が販売するZINEはこちらの4冊です。
・鈴木悠平、愼 允翼『介助とヒーロー『ラストマンー全盲の捜査官』を2人で観る』
・黒木萌『土に呼ばれて 1巡目 2022年2月~2023年1月』
・田代智美『朽ちていくわたしたち』
・sayakame『港区からサイタマに引っ越した7つの理由』
販売ブースは「こ‐9」です。ぜひお越しください。
文学フリマ京都8 1/14(日) 11:00〜16:00
京都市勧業館みやこめっせ(左京区岡崎成勝寺町9−1)1階 第2展示場
入場無料
「刑務所アート展」開催に向けてクラウドファンディング実施中(~1/15)
全国の受刑者たちから募集した芸術作品を展示する「刑務所アート展」の開催を通して、塀の内と外をつなぐ対話の場を生み出します。第2回展示会の開催および、カタログやグッズ、Webギャラリー等のコミュニケーション媒体の制作、持続可能な運営体制づくりのためのご支援をお願いします。
2023年1月15日まで、目標250万円のクラウドファンディングに挑戦中、現在目標の50%ほどです。ページをご覧いただき、ぜひご支援いただければ幸いです。
医師は「答え」を持っていない。患者さんの声をどこまでも「聴く」-オープンダイアローグの実践と精神科訪問看護(ソシエテ)
「支援者として、患者さんの話をもっと聞きたい」「患者さんを身体的に拘束するのはつらい体験だった」
そういう声を、現場の対人支援職の方々から聞くことは少なくありません。医療現場の対応によっては、患者さんだけでなく、支援職もまた傷ついているのかもしれません。
精神科医・森川すいめいさんもかつてそうした葛藤を抱えていたといいます。森川さんは現在、患者さん本人やご家族などの関係者とともに対話をつづけていこうと、北欧で発祥した「オープンダイアローグ」を日本で実践しています。オープンダイアローグとの出会いは、森川さんにどのような影響を与えたのでしょうか。
対話を大切にするメンタルケアサービス「コモレビ」代表の森本真輔とサービス管理責任者・看護師の谷澤早紀が森川さんにお話を伺いました。
Zoom読書会『専門家と回復者に聞く 学校で教えてくれない本当の依存症』
2024年1月20日(土)17時から、Zoom読書会を行います。参加希望の方はご連絡ください。
多くの依存症当事者と家族、そして子どもたちに協力してもらい、依存症とは何か、回復していくとはどういうことかを紹介した本。
黒木萌さんの連載「土に呼ばれて」更新
22 魂が喜んだ
畑を営み、本をつくって、言葉を交わして、人と交わる。それがこんなにも喜びに満ちているとは。
23 大根引きと迎春
地中から覗いている部分を両手でもって、ぐりっぐりっと回し、土の中から少しずつとりだす。しばらくするとくぽっという感触がして、白肌の大根が全景をあらわにする。
私の恋人には触れることだけができない(秦野優)
だって、「リアルの恋人」とできる大抵のことは、私の恋人ともできるからだ。
夫と私のよもやま話Vol.7(田代智美)
夢をみた。強烈な夢だった。
客を「選べない」ドライバーの処世術 令和タクドラ日記 12回(七海駆)
クリスマスの夜に希望の話を-2023年12月25日の日記(黒木萌)
1週間に1,2日ほどデジタルデバイスから離れて、体を動かしたり青空の下で働いたりしたい。先週ふとそう思った。
鈴木悠平の日記
執着と日常 2023/12/04-10
「書く」身体をつくる
つわる 2023/12/11-17
いま原稿用紙に書きつけているものは、まだ筋も構成も人物も物語もあったもんじゃない、セルフ箱庭療法みたいな、小説「以前」の何かでしかない。もうしばらくはこうして身体を動かして出していくので精一杯かもしれない。妊娠初期。
「一つ」分の目算 2023/12/18-24
いま原稿用紙に書きつけているものは、まだ筋も構成も人物も物語もあったもんじゃない、セルフ箱庭療法みたいな、小説「以前」の何かでしかない。もうしばらくはこうして身体を動かして出していくので精一杯かもしれない。妊娠初期。
「崖から飛び降りながら飛行機を組み立てる」という、スタートアップ業界で有名なたとえ話がある。
僕がいま書いているもの、書こうとしているであろうものは、なんだろうか。「こういう飛行機」と言葉にできる程度の設計図も、まだない。飛行機ではない可能性が高い。井戸を掘るような行為に近いかもしれない。ただ今はまだ、どこを掘るかも探り探りだ。リソースの調達方法や、そこに働く力の違いはあるが、自分が手を動かさなければつくれないし、のんびり手をこまねいている時間はない(墜落するなり喉が枯れるなりして死んでしまう)ことは同じだ。
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